ふたりのアーティスト
イタリアでは専門職の人の肩書きには一定の決まりがあります。医者や会計士はドットーレ、技師・エンジニアはインジェニェーレ、弁護士はアッヴォカート、建築家はアルキテットなどなど。これらは個人の職種を表すものではなく大学の学部卒業時の学士号です。例えば建築事務所などで建築デザインの仕事をしていても、その人がデザイン学科出身の場合はアルキテットと名刺に書くことはできません。逆にプロダクトデザインを専門にしていても、建築で学士を持っている人はずっとアルキテットなのです。一方デザイナーには肩書きの明確な決まりがありません。日本などより長い工業デザインの歴史を持ちながら、大学にデザイン学科が設置されたのはほんの10年程前のことなのです。イタリアでは家具・調度品・生活道具など住空間に必要なモノたちも建築の一部と考え、建築家がプロダクトデザインを行ってきたのです。
しかしイタリアのデザインの歴史を作りあげてきたのは建築家だけではありません。あるふたりのアーティストが非常に重要な仕事をしてきたのです。
1907年ミラノ生まれのブルーノ・ムナーリは20世紀初頭イタリアで盛んだった未来派の流れの中で、第2期未来派の芸術家として活動を開始しました。ファシズム政権時代はグラフィックデザイン(カンパリ、モンダドーリなど)を主な仕事としながら視覚芸術の研究・発表を続け、第二次世界大戦後はイタリア内外で数々の展示会を開催して、芸術やデザインの分野に大きな影響を与えました。ムナーリはまた、幼い息子のために絵本を作りはじめたのをきっかけにして、子供の教育に対する芸術分野からのアプローチを研究しました。遊びの中から何かを発見し学びとる子供の心理を研究し、フォームラバー製のサル「ジジ」(‘54年コンパッソ・ドーロ受賞)など玩具のデザインも行いました。‘56年、本当に良い製品を作りたいと相談を持ちかけてきたブルーノ・ダネーゼとのコラボレーションが始まり、生活道具の分野に彼のアーティストとしての視点とモノ観を反映させていきます。無駄のない形態で美しい「クーボ」はタバコの吸い殻が見えず掃除もし易い灰皿。「フォークランド」はストッキングに使われる伸縮性生地を用い、素材の自発的な形が重力によって生み出される照明器具。ダネーゼ社より発表されたムナーリの製品は世界中の注目を浴びました。そのほかスウォッチ社の腕時計「テンポ・リーベロ」やロボッツ社の可変・ノックダウン式生活スペース「アビターコロ」などの製品デザインをしています。

ムナーリは‘98年に他界するまで視覚伝達やデザインについて沢山の文章を書いていますが、その中で代表的なのが‘66年に出版した「アルテ・コーメ・メスティエーレ」(「職業としての芸術」の意。邦題は「芸術としてのデザイン」)です。この本の中で彼はあらゆるデザイン分野におけるものの見方・捉え方・考え方を分かり易く解説しており、個人的にはデザインを学ぶ学生達にとって必読の書だと思っています。
ムナーリがダネーゼ社の製品を手掛けるにあたり、もうひとりのデザイナーとして白羽の矢を立てたのがエンツォ・マリでした。1932年ミラノ近郊ノヴァラ生まれのマリはミラノのブレラ芸術アカデミーを終了後、視覚芸術のアーティストとして製品デザインの仕事を開始しました。ダネーゼ社のためにデザインした傾斜したごみ箱「イン・アッテーザ」、上下両方使える花瓶「パゴパゴ」、ステン板を捻ったペーパーナイフ「アメランド」、フルーツボウル「アダル」など、視覚的効果と心理の関係に重点を起き、かつ素材特性と生産工程を研究した上でのカタチを生み出しています。
マリは厳しいデザイナーとして有名で、イタリア商工業の現状やデザイン教育の問題点について常に辛辣な発言をしてきました。最近は特にここ数年のデザインを取り囲む環境の急速な商業主義化を憂いでいます。これは不況と通貨統一の影響でイタリアの産業・経済が不安定な状態にある中、経営者や投資家など一部の資本家が台頭してアメリカ的なマーケット理論による生産・販売活動を進めていることが、文化と呼ばれるようなものとはかけ離れた金儲け主義の産業構造を生み出しているというものです。企業そのものやデザインの価値を理解していない資本家が経営者となり、目先の利潤のためのモノづくりをしている現状は、イタリアン・デザインをここまで育て上げてきたかつての土壌とはまったく異なります。確かに現在のメーカーはすぐに生産してすぐに売れるような出来上がったデザインを求めているふしがあり、デザイナーと共同でじっくり製品開発をして良いモノを作り上げようという精神が希薄になっているように感じます。
商・工業を熟知し共生しながらもそれに呑み込まれることなく、新しい文化の創造として製品デザインをするアーティストの作品は、過去の遺産ではなくこれからの世界を作る方向を指し示す道標のようにも見えます。
私たちトーヨーキッチンも、今売れるものを追い求めるのではなく「これからの生活を豊かにするもの」をテーマに製品開発を進めています。それは見えていないニーズであり「新しいこと」への取り組みで紆余曲折、試行錯誤の繰り返しです。2006年私たちは多くの新製品を発売いたしました。キッチンの新たな可能性の提案なのです。
9月28日 スタジオ南青山で発表した「GRAND BAY ino」はシステムキッチンの最高峰GRAND BAYをさらにブラッシュアップし拘った完全受注生産キッチンです。
斬新な135°レイアウトに隠された「新しい空間」「新しいキッチンの在り方」をまずはスペシャルサイトで体感ください。
投稿者 tks : 2006年10月06日 18:40
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:



